ネットの誹謗中傷から子どもを守る 名門校・開成学園の教師が教えた「国語力」とは

国語教諭(yu)・神田邦(bang)彦先生(sheng)インタビュー 第2回

木下 千寿

神田邦彦先生

ネット空間における「言葉の暴力」は、誰もが指先一つで「加害者・被害者」になってしまう可能性があり、大人はもちろん、子どもたちにとっても非常に身近でかつ深刻な問題です。

2021年に、全国トップの東大進学者数を誇る名門校・開成中学で、「ネットの誹謗中傷」を国語の授業として取り上げたことが話題になり書籍化もされました。
(『中学校の授業でネット中傷を考えた 指先ひとつで加害者にならないために』宇多川はるか著)

授業を行った国語教諭・神田邦彦先生に、ネットの誹謗中傷を「国語」の授業として取り上げた背景、誹謗中傷問題を防ぐための教育についてお聞きした第1回に続き、第2回では「ネット上で求められる国語力」についてお聞きします。

「死ねよ」悪気なく使っていても

──ネット上では特に、人目をひくため、関心を持たせるために「攻撃的な言葉」や「強い言葉」を使う、という流れも見受けられます。

神田邦彦先生(以下、神田先生):
たとえば「死ねよ」なんかもそうですね。友人が何かくだらないことを言ったときに「お前、一回死ねば?」というような感じで日常的に使っていて、本人たちに悪気はあまりない。

あるとき授業で、生徒たちに「『死ねよ』って今までの人生で1回も言ったことがない人はいる? ちなみに僕は、1回もないんだけど」と聞いたら、生徒たちからは「先生、噓だ~!」という声も上がりましたが、一人「言ったことがない」という子がいました。

「なぜ言わないの?」と尋ねたら、彼は5秒ほど考えて「なんかやだ」と答えたのです。その言葉を聞いて、僕は「これ以上の正解はないな」と思いました。「死ね」という言葉に対して「なんかやだ」という感覚を、彼はもう手に入れているわけです。彼の親御さんに「どうお育てになったんですか?」と聞きたいぐらいでした(笑)。

一方で、そのほかの生徒たちも優しい子はたくさんいて、物事をしっかり考えられる頭も持っている。それでも、「死ね」と言ってしまうんですね。だから「その言葉は、人の存在を全否定していて気持ちが悪い」と感じる人がいるということを教えてあげると、今後、その言葉を口にするとき、彼らの唇が違和感を持ち出すのかなと思いました。仲間の意見を聞くことで、生徒たちにとって、良い気付きになったと思います。


──言葉や、言葉に対する感覚は時代と共に変化し続けていますから、非常に扱いが難しいですね。

神田先生:
流行の若者言葉(xie)であるとか、使い慣れてしまって感覚が鈍(dun)り、言ってはいけない言葉(xie)を使ってしまうという面もあると思います。ただ、その言葉(xie)の問題点を知り、その言葉(xie)に違和感を持っている人がいることを気づけば、自分が口(kou)にしてしまいそうになったとき、ハッとする子どももいると思うんです。

「すべての発話は、対象を表すよりも自分を表す」

神田先生:僕は、生徒たちに「すべての発話は、対象を表すよりも自分を表す」とよく言っています。

たとえばA君が、ツルカメ君という子について「TRKMくんは、デブでウザい」とネットに書き込んだとします。

これは「TRKMくんがデブでウザい人物」であると表しているのではなく、A君が、

「僕は、人間を身体的特徴で評価する人間です」
「アルファベットで匿名にすれば、許されると思っています」
「そんな悪口をいう僕ですが、よろしくお願いします」

と言っているのと同じことなんです。

もちろん、悪(e)口(kou)を言われた本人は傷つきますが、それでツルカメ君の人間性が損なわれるということではないのです。むしろ、悪(e)口(kou)を言ったA君自身の価値を下げている。こう考えていくと、表(biao)現、とくに他者に向(xiang)かう発言は怖(bu)いと思い知らされます。

「人の悪口を言う人間です」という名刺配り

──個人がネットを通じてさまざまな情報を発信できる時代ですが、そこで求められる“国語力”とは?

神田先生:
やっぱり、いろいろな意味での「コミュニケーション力」かなと思います。文章から登場人物の心情や書き手の意図を読み取る読解力も、写真や映像からメッセージを受け取る想像力も、コミュニケーション力のひとつ。

どんな表現をする場合もそうですが、とくに他者について何かを語るとき、その言葉は、発言した本人がどんな考えをもっているのかを明らかにします。

たとえば悪口を言ったなら、「僕は人の悪口を言う人間です」という名刺を配っているのと同じです。性別や民族や歴史などへの、自分の認識・自分の思う常識の枠から発せられる言葉の中には、隠れた差別感情がひそみ、他者の尊厳を傷つけてしまうものもあります。


何かを表現する際には、「自分もまた、無知や無自覚ゆえに過ちを犯すかもしれない」という意識を持ち続けなければならないと思います。

──授業を通じ、生徒さんの言葉の中で印象に残っているものはありますか?

神田先生:
ひとつは、木村花さんのお母さん、木村響子さんへの誹謗中傷や、旭川での女子中学生凍死事件のご遺族への誹謗中傷があったことへの「意味分かんねー」という反応です。

これは、重要なポイントに関わると思いました。つまり「意味わからない中傷」があるということは、逆に「意味が分かる誹謗中傷」というのが、あり得ることを表しているのではないかと。


数ある誹謗中傷の中で「コイツは、何を言われてもしょうがないよね」と共感してしまう自分も、いるかもしれない。その人を攻撃するコメントに「いいね」を押してしまうかもしれない。そんな危うさを表した一言でした。

しかし、たとえ許しがたい罪(zui)を犯していたとしても、ネット上でのリンチは“私(si)刑”。それは近現代社会では許されないことで、当人は別(bie)の場(chang)で裁かれるべきです。それがまったくの冤罪(zui)、デマであったりすれば、自(zi)分(fen)の正義(yi)感の暴走が、取り返(fan)しのつかない人権侵害(hai)を引(yin)き起こすことになります。

「スマホは脳内」プライベート空間がネット上につながっている

▲神田先生の授業を取り上げた書籍『中学校の授業でネット中傷を考えた 指先ひとつで加害者にならないために』でも、スマホを「脳の中」「手の中の出来事」と感じることについての対話が収録されている

神田先生:もうひとつ印象に残ったのは、「スマホは脳内だ」という発言です。

今では、スマホは手の中におさまるサイズでどこへ行くにも常に持ち歩くという人も多いでしょう。もはや、自分の身体の一部になっているような状態といえます。

スマホの中には、自分のスケジュールやプライベートの写真、友達とのやりとりも全部入っています。それは人には公開しない「完全なプライベート」、つまり「脳内」だと。

頭の中で「アイツ、ウザいな」と呟くことはあるでしょう。その“脳内感覚”で、ついネット上の書き込みもしてしまうのでは、という発言が生徒からあって、なるほどなと思いました。

例えば、僕自身も、「舌打ちしてはいけない」と思っていても、自動発作で思わず舌打ちが出てしまうこともあります。それと同じような感覚で、「やっちゃいけない」と頭では理解していても、自動発作でネットに書き込んでしまうこともあるかもしれないと。

だからこそネットでの書き込みに対して、日頃から自らに課すハードルを高く上げておかなくてはいけないと思います。

閉ざされた環境で発言しているつもりでも、一度インターネットに情報を上げてしまえば、あっという間に拡散されたり、スクリーンショットなどで永遠に残ってしまう可能性があります。


また匿名で利用していたとしても、本人を特定することは可能です。ですから、「これが全世界に流れても、一生後悔しない」ということしか、ネットに書き込んだり、反応したりしてはいけないと、僕は生徒に伝えています。

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〈この記事のまとめ〉

神田先生(sheng)が考える国語力とは、どの言(yan)葉(xie)を使うか、どんな表現をするかも含(han)めた、広い意味での「コミュニケーション能力」。私(si)たちも、何気ない発(fa)話(hua)が自(zi)分の価値観を示していると自(zi)覚しなければいけません。また、スマホはまるで自(zi)分の脳内のような感覚で扱いがちですが、ネットで全世(shi)界と繫がっていることを忘れずにいたいですね。

【「国語教諭・神田邦彦先生インタビュー」は全3回。ネットの誹謗中傷を「国語」の授業として取り上げた背景、誹謗中傷問題を防ぐための教育についてお聞きした第1回に続き、第2回では「ネット上で求められる国語力」についてお聞きしました。最後の第3回では、「暴走する正義感」・「親子で考えるスマホとの付き合い方」についてお聞きします】

取材・文/木下千寿
撮影/神谷美寛

中学校の授業でネット中傷を考えた 指先ひとつで加害者にならないために

『中学校の授業でネット中傷を考えた』冒頭試し読み

左へスワイプ、または右側のボタンをクリックしてください(実際の書籍(ji)は右開きです)

指先をほんの少し動かしただけで、瞬時にして人を傷つけ、ときにはその激しい言葉が人の命まで奪ってしまうネット上の誹謗中傷。テクノロジーが発達した現代の新たな問題にとりくんだのは、全国でもトップの東大進学率を誇る開成中学の神田邦彦教諭(国語担当)だった。神田先生の特別授業を追った白熱の記録が、一冊にまとまった!

ネット上の誹謗中傷はなぜ起こるのか? どうしたらなくせるのか? 現代社会に忽然と姿を現し、いまだ解決の糸口さえつかめていないこの大きな課題に対して、開成中学の生徒たちは、神田先生とともに真剣に考え、議論を戦わせた――。

その迫真の授業を再現するとともに、新聞記者である著者と、授業に参加した生徒たちとの対話、授業をふまえて生徒たちがまとめたレポートもあわせて掲載し、この問題へのさまざまなアプローチを紹介していく。

巻末には、リアリティ番組『テラスハウス』に出演した際の言動がネット上で批判の的となり、自ら命を絶ったプロレスラー・木村花さんの母・響子さんが千葉県の小学校で行った特別授業の全容も掲載する。

『中学校の授業でネット中傷を考えた』を試し読みする(全(quan)14枚)
きのした ちず

木下 千寿

福岡県出身。大学卒(zu)業後、情(qing)報(bao)誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各(ge)種インタビューを中心に、ドラマや映画(hua)、舞(wu)台(tai)などのエンターテイメン...

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