SNSの誹謗中傷 子どもを「加害者にしない」教育 名門校・開成学園に学ぶ「国語」の重要性

国(guo)語教諭・神田邦(bang)彦先生(sheng)インタビュー 第(di)1回

木下 千寿

神田邦彦先生

瞬時にして人を傷つけ、ときにはその激しい言葉が人の命まで奪ってしまうSNS上の誹謗中傷。

ネット空間における「言葉の暴力」は、誰もが指先一つで「加害者・被害者」になってしまう可能性があり、大人はもちろん、子どもたちにとっても非常に身近でかつ深刻な問題です。

2021年には、全国でもトップの東大進学者数を誇る名門校・開成中学で、「ネットの誹謗中傷」を国語の授業として取り上げたことが話題になり、書籍化もされました。
(『中学校の授業でネット中傷を考えた 指先ひとつで加害者にならないために』宇多川はるか著)

授業を行った神(shen)(shen)田(tian)邦彦先生に、ネットの誹(fei)謗中(zhong)傷を「国語」の授業として取り上げた背景(jing)や、神(shen)(shen)田(tian)先生が考える「被害」をなくすための手段についてお聞きしました。

ネットの誹謗中傷を授業テーマにした背景

──神田先生が、ネットでの誹謗中傷に意識を向けたきっかけは?

神田邦彦先生(以下、神田先生)
:2000年ごろから、匿名の掲示板サイトでのさまざまな書き込みが話題を呼んでいました。学校においても何か指導をしなければということで、生徒に注意喚起を呼び掛けたり、啓蒙プリントを配布したりしましたが、それだけでは生徒たちにさほど響かない。そんなとき偶然、お笑い芸人スマイリーキクチさんの『突然、僕は殺人犯にされた』(2011年刊行)という著書に出会いました。

スマイリーさんはある殺人事件の犯人だとネット上に書き込まれ、それから10年にわたり誹謗中傷を受け続けてきました。その10年の戦いの記録をまとめたものです。読んでみると、ドキュメンタリーとしての迫力に圧倒されました。

スマイリーさんの長年の苦難、それを乗り越えていく過程をこの一冊の本で読むことで、生徒たちも「ネットでの誹謗中傷の深刻さ」をリアルに感じてくれるのではないか、と考えたのです。

また、この本には、苦しい状況を乗り越えていく過程で、彼の味方になり応援する人々との繫がりも温かく描かれています。そのことについても、子どもたちに気づいてほしい、と感じました。そこで2012年に、中学2年生の現代文で、授業の課題図書として取り上げたのです。

──それから約10年が経った2021年に、先生はあらためて「ネットの誹謗中傷」をテーマにした授業を行ったそうですね。

神田先生:
2011年はパソコンでの書き込みが主流でしたが、スマホが広く普及するにつれ、ネット上でのコミュニケーションはSNSがメインになり、時代が大きく変わりました。

それに伴(ban)い、SNS上の誹謗中傷をきっかけにしたさまざまな問題がそれまで以上に注目(mu)を集めるようになっていたことから、「また“ネットでの誹謗中傷”をテーマにした授業をやりたい」と考えていたのです。

「言語現象」すべてが授業の題材

──今や子どもたちも、スマホを持つ時代です。

神田先生:
小学生でも通学や塾、習い事の送迎の関係から持つことが増え、また中学合格のお祝いにプレゼントというのも、よくあるケースです。このように子どもたちがスマホを持つようになったことで、ネット上での誹謗中傷の問題は彼らにとっても身近な問題になりました。

この問題について考えるタイミングは「早ければ早いほどよい」と思いますが、一方で早すぎると、大人からの一方的なただの“お説教”で終わってしまう可能性もあります。


その点、中学2年生は「抽象的思考」ができるようになり、人間の心理や、社会の様子、他者への興味なども芽生え始めるタイミングなので、生徒たち自身がしっかりこの問題を考えることができるのではないか、と思いました。


──道徳や倫理の授業ではなく、現代文の授業で「ネットでの誹謗中傷」を考えるということに驚きがありました。

神田先生:
開成では、担当教員が生徒に「どんなことを学んでほしいか」という考えのもと、自由に副教材を使用できる環境にあります。

僕は世の中にある言語現象はなんでも、授業の題材にしたいと思っています。たとえば、電車の車内広告や雑誌の見出し、街中の看板に使われている「言葉」を授業で取り上げることもあります。

それらの中(zhong)には、これでよいのだろうか?と疑問を感じるような、実はギリギリの表現もたくさんある。そういった事柄を授業で扱うことで、身の回りの言語現象からも「言葉に対しての鋭敏(min)な感覚(jue)」を育てたいと考(kao)えています。

「誹謗中傷」を自分ごととして考えるには

──授業では生徒から多様な意見が出るかと思いますが、先生が授業を進めるにあたり、意識していたことは?

神田先生:
何十年も前のことですが、教育実習の際に、詩を題材に授業をしました。担当の先生に「自分の読解を生徒たちに説明するのは、押しつけのように感じられる」と打ち明けたところ、「押しつけになるぐらい、つまり、自分の読解にしっかりと自信を持って教えられるぐらいに、徹底的に教材研究をしてこなければダメだ」と言われ、その言葉がストンと胸に落ちたんです。


ですから授業をするにあたっては、僕自身が徹底的に考えて準備をします。生徒から出そうな意見、それに対する返答など、極力、想定して、最終的に生徒たちにたどり着いてほしい結論への道のりを考えます。


ある程度の展開を考え、シナリオを作っておけば、アドリブ的な要素が入って流れがズレても、本筋に戻ってくることができます。そして、最後に持っていきたい結論は絶対にブレないこと。誘導しているようにも取れますが、それでも僕が考える「強い確信」のところまで、生徒を連れていきたいと思っています。

もちろん、生徒から驚くような鋭い意見が出ることもありますので、柔軟に取り込みながらも、目的地はブレないようにします。


──「ネットの誹謗中傷」をテーマにした授業における、先生の“強い確信”とは?

神田先生:
「誹謗中傷はやっちゃダメだよね」という当たり前、道徳的視点で終わらせるのではなく、「なぜ、こういうことをやってしまうのだろう?」「自分もやっちゃうんじゃないかな?」と考えて、ネットでの誹謗中傷を“自分ごと”にしてほしいと思っていました。

ネットでの誹謗中傷の例を出し、「そんなバカなことを、自分はするはずがない!」という生徒たちに、僕は「そうだよね。じゃあ、やるかもしれない局面を考えてみよう」と投げかけました。

僕は授業でいつも「“なぜ”を考えよう」と言っています。

「なぜ、ダメなのか」「なぜ、やってしまうのか」。5W1Hの中で、「だれが」「いつ」「どこで」「なにを」「どのように」は、見れば分かりますが、「なぜ」だけは考えなければ分かりません。

以前、ある学校の事例でこんな話を聞いたことがあります。ファーストフード店から「生徒さんが利用してくださるのはありがたいが、トレーごとゴミ箱に捨てるのはやめてほしい」と連絡があったというのです。

子どもたちにこの話をしたところ、「そんなこと、するはずないよ!」といった声が上がりましたが、「やるかもしれない局面を考えて」と投げかけてみました。すると、ある生徒から「罰ゲーム……」という言葉が出たんですね。


たとえば、仲間内で何かゲームをしていて、誰かが「負けた人は、ゴミをトレーごとゴミ箱に捨てる!」と言い出したとしましょう。その場では「面白いじゃん!」と盛り上がったけれど、いざ自分が負けてしまったら、内心「イヤだな」と思っても、もう言えない……そんな局面なら、「やるはずない」ようなことも、やってしまうかもしれません。

その「なぜ」を徹(che)底的に考えることで、自分がやるかもしれない局面に立ったときも、同調(diao)圧力などの愚(yu)かなことに初めからちゃんと抵抗(kang)できると思うのです。

▲神田先生の授業を取り上げた書籍『中学校の授業でネット中傷を考えた 指先ひとつで加害者にならないために』でも、生徒たちが「なぜ」を考える様子が克明に記されている

神田先生が考える「被害」をなくすための手段とは

──「自分はそんなこと、やるはずがない」という考えこそ危うい、ということですね。

神田先生:
交通事故を起こしたいと思って、起こす人はいません。でも広い大地の真っ直ぐな道を車で走っていて、周りに走っている車や人が見当たらなければ、もしかしたらスピードを出してしまうかもしれない。それが不運にも事故に繫がるという可能性はある。

ネットでの誹謗中傷も同じです。初めから「加害者になろう」と思って書き込んでいる人は、少ないと思います。


ただ、容易に書き込める手軽さ、無知や想像力の欠如、自分なりの正義感などから、とんでもないことを言ってしまう。それが世界に発信された結果、被害者に大きな傷を負わせるだけでなく、自分自身も加害者であったことがバレて、人生を棒に振ることになるのです。

現代のネット社会では、「誹謗中傷の被害者にならないようにする」というのはなかなか難しいことです。

少しでも「被害」にあう人を減(jian)らす、そのためには、「加害者にならないようにする」しかない。そして、「加害者にならないようにする」ことは、自分の意識次(ci)第でかならずできると思います。

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〈この記事のまとめ〉

「ネットの誹(fei)謗中(zhong)傷」問題で、少しでも被害を減らすために私たちにできるのは、まず「自分(fen)が加(jia)害者にならない」ことです。そのために、「加(jia)害のきっかけ」は同調圧力(li)や承(cheng)認欲求などさまざまな要因があることを知(zhi)り、「自分(fen)も誹(fei)謗中(zhong)傷をしてしまうかもしれない」という危(wei)機感をもつこと、また「なぜ、こういうことをやってしまうのか」を考(kao)え続(xu)ける姿(zi)勢を心(xin)がけたいですね。

【「国語教諭・神田邦彦先生インタビュー」は全3回。ネットの誹謗中傷を「国語」の授業として取り上げた背景、誹謗中傷問題を防ぐための教育についてお聞きした第1回に続き、第2回では、「ネット上で求められる国語力」について、最後の第3回では「暴走する正義感」・「親子で考えるスマホとの付き合い方」についてお聞きします】

取材・文/木下千寿
撮影/神谷美寛

中学校の授業でネット中傷を考えた 指先ひとつで加害者にならないために

『中学校の授業でネット中傷を考えた』冒頭試し読み

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指先をほんの少し動かしただけで、瞬時にして人を傷つけ、ときにはその激しい言葉が人の命まで奪ってしまうネット上の誹謗中傷。テクノロジーが発達した現代の新たな問題にとりくんだのは、全国でもトップの東大進学率を誇る開成中学の神田邦彦教諭(国語担当)だった。神田先生の特別授業を追った白熱の記録が、一冊にまとまった!

ネット上の誹謗中傷はなぜ起こるのか? どうしたらなくせるのか? 現代社会に忽然と姿を現し、いまだ解決の糸口さえつかめていないこの大きな課題に対して、開成中学の生徒たちは、神田先生とともに真剣に考え、議論を戦わせた――。

その迫真の授業を再現するとともに、新聞記者である著者と、授業に参加した生徒たちとの対話、授業をふまえて生徒たちがまとめたレポートもあわせて掲載し、この問題へのさまざまなアプローチを紹介していく。

巻末には、リアリティ番組『テラスハウス』に出演した際の言動がネット上で批判の的となり、自ら命を絶ったプロレスラー・木村花さんの母・響子さんが千葉県の小学校で行った特別授業の全容も掲載する。

きのした ちず

木下 千寿

福岡県出身。大学(xue)卒業後(hou)、情報誌の編(bian)集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画(hua)、舞台などのエンターテイメン...

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